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遺言執行 [弁護士の仕事]

 (…きのうの続き)

 彼女には身寄りがない。遺言には、葬儀の主宰者(葬式を取り仕切る人)や祭祀の承継者(仏壇仏具や墓を引き継ぐ人)の指定がない。ご遺体を荼毘に付して、ご遺骨をどこに納骨するのか。そこから始めよう。

 菩提寺の住職に電話を架けた。住職は、彼女は母親が亡くなったことを悲観して後を追ったのだろう、母親と彼女の永代供養料は既に納められてあるので、ご遺骨を持参すればいつでも菩提寺の墓に納骨することができると言っていた。母親と彼女は一心同体だったようで、母親が亡くなると自分の存在意義はないと考えたのだ。遺書にもそのようなことが書かれていた。

 「遺書」と「遺言」は違う。
 世をはかなんで書くのが「遺書」、自分がこれまでやって来た証(あかし)を次の世代に引き継ぐのが「遺言」。動機において、「遺書」はネガティブであるのに対して、「遺言」はポジティブだ。

 これからポジティブに遺言執行をしていこう。

 【葬儀・納骨】
 私がご遺体を荼毘に付した。骨揚げも私ひとりで執り行った。警察からご遺体を預かっていた葬儀屋の社長に頼んで、一緒に動いてもらった。焼き上がった熱い骨壺を膝の上に置き、葬儀屋の社長が運転する霊柩車の助手席に座った。行き先は彼女の菩提寺。浅草の名刹だった。住職のありがたい話を聴き、人生の儚さ・無常の意味を知った。自分の葬儀のお布施は、彼女が生前菩提寺に支払っていた。初七日、四十九日、それ以降の法要のお布施も彼女が。

 【遺産】
 自宅の土地建物は、彼女と母親が生活を続けた市に遺贈した。「高齢者の福祉のために」という条件だった。そこで、訪問看護ステーションとして使ってもらえるよう交渉をした。しかし、家も土地も狭かったため厳密な意味で目的を達成することができなかった。結局、家を取り壊し約60坪の土地を高齢者が散歩できるようにと公園を作ることになった。

 預貯金について、「菩提寺に500万円」遺贈するという遺言は、執行不能になった。住職が固辞したのだ。宗教法人が檀家からこういう形でお金をもらうことは、宗旨に反するとの理由だった。納骨後、約一ヶ月して訪問した私に、住職は宗教人としての神髄を話してくれた。ありがたい話をうかがい、心が洗われた。
 結局、菩提寺が受け取ってくれなかったものを含め、県と市に数千万円を遺贈した。何故か、私が「感謝状」を受け取ることになった。市長は市長室で私に手渡しをしたいと言っていたようだが、それには及ばないと言って断った。後日、「感謝状」が郵送されてきた。形だけの感謝に、心は全く動かなかった。彼女が望んだように、福祉のために使ってくれれば良いのだが。

 彼女が遺言を作成する直前に、2回も電話を架け「本当に引き受けてもらえるのか」と尋ねたワケが、ようやく分かってきた。自分の亡骸をアカの他人に委ねて良いものかどうか、生きてきた証でもある財産を次の世代に引き継ぐ手続をこの弁護士に委ねて良いものかどうか。両方とも、誰にでも頼めることではなかった。彼女は、私に依頼することを何度も躊躇したのだろう。

 彼女の期待に応えられたかどうか、私には自信がない。
                                         (このシリーズは終わります)
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取調 [弁護士の仕事]

 (…きのうの続き)

 夜8時ころ、神奈川県警○○警察に着いた。捜査一課のデカ部屋へ入ると、大きな部屋に2、3人刑事と思われる人がいた。主旨を話し、自分の氏素性を説明すると、担当の刑事が奥から出てきた。

 電話で聞いた声からは想像できないほど、小柄な刑事だった。しかも、喋らなければ威圧感もない。少しほっとした。

 刑事「夜分ご足労しただいて恐縮です。さぁ、こちらへ」と言って、私を小部屋へ押し込んだ。「取調室(1)」と書いてある。タバコの煙で黄ばんだ壁と、安っぽいねずみ色の事務机にぼろい椅子。事務机にはアルマイトの灰皿。刑事ドラマと同じセット(いや、セットじゃなくてホンモノ)。

 うぁ。どうしよう。と思いながらも「自分は弁護士なんだ(落ちつけ!)」と言い聞かせ、冷静を装った。
 刑事は、ニヤニヤしながら私を見ている。

 私 「私は被疑者(容疑者)なんですか?」真顔で尋ねた。
 刑事「今の段階では、何とも言えませんなぁ」威圧感ありすぎ。
 私 「(黙秘権の告知はするんだろうか…)………」
 刑事「冗談はそのくらいにして、話に入りましょうか」
 私 「(ほっ。)…」

 彼女は、自宅で自殺をしたらしい。その足下に、遺書とともに封をした手紙が二通あった。一通は菩提寺の住職宛、もう一通は私宛だった。刑事訴訟法上、封書をこじ開けるには捜索差押令状が必要だ。こんなことで、令状までとるのは面倒だというので、任意に提出してもらうため私を呼んだのか、と思った。手紙に何が書いてあるのか教えろという。任意に教えるのは嫌だなと一瞬思ったものの、権力におもねって、その手紙を刑事に差し出した。これで「取調」は終わりかと思い、人心地が付いた。

 しかし、刑事の「取調」は、まだ続いた。
 刑事「先生と××さんは、どういうご関係ですか?」
 私 「(まだ疑っているのか…) どういう関係とは、どういうことですか?」
 刑事「個人的なお付き合いは、…」
 私 「(なんてことを … ) そんなもの、ありませんよ。単なる依頼者と弁護士の関係だけです」
 刑事「ああ、そうですか」。ニヤニヤしながら上目遣いで見ている。
 私 「え、えぇ。(嫌なやつだな…)」

 その後、彼女からの相談内容や依頼内容、法律事務所が流行っているかどうか、などなど調書は作らなかったが事細かく聴かれた。被疑者・被告人が取調を受けている時の気持が少しだけ理解できた。

 約30分の長い「取調」(本当は単なる「事情聴取」)は終わった。それにしても、苦痛を伴う仕事は、実に長く感じるものだ。

 清楚で美人の女性が、素行の悪い弁護士に引っかかり、捨てられた挙げ句、世をはかなんで自殺したとでも思ったのだろうか(…そうじゃなくて、よかった…)。

 後味の悪さを残しつつ、警察署を後にした。

 彼女には身内がいない。ご遺体をどうするのか、遺言執行の手順をどうするのか。駅前の居酒屋で験直しをしながら考えよう。ざらついた気分を洗い流そう。

 (つづきは、あした)

 

 

 
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遺言 [弁護士の仕事]

 清楚な女性だった。その女性は、まだ50歳になったばかりだというのに、遺言を書きたいという。前の年に母親を病気で亡くし、自分の死について考えるようになったようだ。夏の終わりの相談だった。

 公正証書遺言を作成することにし、その内容の検討に入った。自分には母以外に身寄りがない。自分が死んだ後、土地と建物は、高齢者福祉のために役立てて欲しいと居住している市に寄付したいとの意向。預貯金については、菩提寺に500万円、その余の預貯金は県と市に寄付し広く福祉に役立てたいという。遺言執行者は私を指名した。遺言の内容について確認し、翌々週公証人役場で正式に遺言書を作る段取りにした。

 初回の相談後、彼女は私に2回電話を架けてきた。2回とも、見ず知らずの私の遺言執行を、本当に引き受けてくれるのか、という内容だ。このような内容の電話を受けたことがなかった。電話のたびに、「大丈夫ですよ。これも何かのご縁ですから…」と答えるのだが、彼女は意思確認を繰り返した。その時は、几帳面な人で、私の心情を慮ってくれるのだな、という程度にしか受けとめることができなかった。

 翌々週、予定どおり公証人役場で遺言を作成した。彼女は、何度も感謝の言葉を口にした。

 〈何ごともなく時は過ぎていった〉

 年の瀬、私は顧問をしている会社の忘年会に参加するため、新幹線に乗っていた。気持ちは既にオフモードになっていた。突然私の携帯にスタッフから電話が入った。

 スタッフ「○○警察の刑事さんから、今すぐ電話が欲しいと連絡がありました。××さんが昨日亡くなられ、遺書のようなものと、先生とお寺の住職さんに宛てた手紙があったそうです」

 ×× さんとは、夏の終わりに遺言を書いた彼女だった。

 私は早速警察に電話をした。電話に出た刑事は捜査一課(殺人などの凶悪犯を担当する部署)の刑事だった。聴きたいことがあるので、直ぐに警察へ来るようにと言うのだ。拒むことができない程の威圧感を感じた。私はその刑事に、彼女が、どこでどのようにして亡くなったのかと尋ねた。しかし、刑事は迫力のある声で「お目にかかったときに、話しますから…」と言うのみで、何のヒントも与えてくれなかった。もしかして、私は被疑者(容疑者)なのか?

 次の駅で新幹線を降りた。顧問会社の社長に謝罪の電話を架け、私は上りの新幹線に飛び乗った。
 
 (続きは、あした…)

 

 

 
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刑事事件 [弁護士の仕事]

 最近は軟弱な弁護士になってしまったが、以前の私は戦う弁護士だった。20数年前、成り立ての私は一年間に国選弁護事件(刑事事件)を29件こなした。このイソ弁をボスがどのように見ていたか想像すると、冷や汗が出てくる。

 今から約10年前、ある国選を受任した。罪名は殺人罪。
 喧嘩の仲裁に入った被告人が、逆恨みされて殴り倒され、反撃のために足蹴りをしたところ、足は相手の胸を直撃した。搬送先の病院で相手は亡くなった。

弁護人の意見 「被告人は無罪」
その根拠は、①被告人の暴行と死の結果に因果関係なし、②正当防衛、③殺意なし

弁護人からの証拠開示請求
① 救急搬送した消防隊員の調書、② 剖検結果報告書(解剖の際に作られた報告書)

弁護人からの証拠調請求
① 証人申請 ⅰ一緒に酒を飲んでいた友人 ⅱ喧嘩の目撃者 ⅲ救急搬送した救急隊員 ⅳ解剖医
② 証拠物 当時被告人が履いていたサンダル

裁判所の判断
1 因果関係
  救急隊員の心臓マッサージで肋骨が折れ、その骨が心臓に刺さった。被告人の履いていたサンダルは柔らかい素材で心臓に衝撃を与えることは不可能。被告人の足蹴りと死との因果関係は認められないが、傷害の結果との間に条件関係がある。
2 正当防衛
  正当防衛は認めず、誤想過剰防衛を認定。被告人は二度被害者に向けて足蹴りをしており、二度目の足蹴りがヒットした。この段階で「急迫不正の侵害」はなかった。
 
判決
  被告人は、懲役3年。未決勾留日数2年6月を刑に参入。 (求刑は懲役8年)

殺人罪を認定せず、傷害致死罪の認定。

 被告人に控訴の意思はなく、検察官からの控訴もなかった。判決は確定した。

 半年後に刑務所から出てきた被告人は、爽やかな顔で私の事務所を訪れた。長い裁判だったが、被告人を信頼して戦ったことに爽快感があった。しかし、本当は無罪にできた事件だな。
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損害賠償 [弁護士の仕事]

 堅い話が続いているので、柔らかい話を。

 今から約10年前、あるタレントから事件の依頼を受けた。タレントと行っても、いわゆる「ストリッパー」で、ご贔屓(ひいき)筋の医者から損害賠償の請求を受けたのだ。損害賠償請求事件の被告代理人。しかも、原告の医者に代理人はおらず本人訴訟だ。

 医者の訴状がすごい。訴状の中身が卑猥な言葉と低俗な表現で一杯。挙げ句の果てに、書証として被告のヌードのグラビアを提出してきた。こんな書証を裁判所でやりとりして良いものかと、目を疑いたくなるような代物だった。

 請求の趣旨は、
 ①被告は原告に1500万円を支払え。②対価に見合ったサービスをしろ(だいぶ前の話なので…多分こんな表現)

 請求の原因は、
 ①被告が興業に来るたびに一泊30万円のスイートを連泊させ、食事も高級レストランで食べさせ、ワインも一本数十万円だった。これら原告が被告に貢いだお金は合計1500万円。それにも拘わらず、被告は原告に対しなんらのサービスもしない(この辺りの表現はもっとドギツイものだった)。したがって、1500万円を返還しろ。
 ②もし、1500万円を返還しないのならば、それに見合ったサービスを提供しろ(このサービスがひどい……SM)。

 訴訟に被告を出頭させるのが、原告の本当の狙いだったようだ。しかし、被告代理人としては断じてその狙いには乗らない(すばらしい代理人だな)。原告は法廷でいらだった。その挙げ句、尋問請求。しかし、却下。

 裁判官は原告の狙いを悟ったようだ。
 判決は当方勝訴の判決。「請求を棄却する」

 原告は控訴せず、判決は確定した。
 「趣味の世界を、現実の世界と混同しないように」。これは私の独り言。

 

 
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離婚 [弁護士の仕事]

 同じような離婚事件が2件、ほぼ同時期に受任し、ほぼ同時期に終わった。調停が不成立に終わり訴訟で争った。いずれも妻が夫の留守中に子ども2人を連れて家を出て行ったケース。私は夫の代理人だ。

 2件とも、夫が暴力を振るったとか、夫が妻の会話を盗聴した、などという被害者として妻が離婚を請求してきた。しかし、実際には、妻が夫名義の数千万円の預金を無断で流用したり、妻が複数の男性と不貞行為をしていたり、自分の不始末を覆い隠すために様々な離婚原因をねつ造していた。

 切ないのは、家に帰ると家具や日用品がなくなっていて、しかも前日まで、「わいわいがやがや」会話していた子どもたちがいないのだ。この喪失感、言葉では言い尽くせないものがある。しかも、自分に何らの非がある訳でもない。踏んだり蹴ったりというのは、こういうことを言うのだろう。アメリカでは、共同親権を行使している片親が子どもを連れ去ることは「誘拐罪」として刑事事件として立件される。日本では犯罪にはならないとしても、犯罪以上に罪は重いのではないか。夫は妻を「絶対に許さない」と言い放った。

 事件が終結するまで、2年半以上の時間を費やした。時間もさることながら、夫の受けた精神的な苦悩は、端から見ていても痛々しい。言葉を選びながら、打ち合わせを繰り返した。

 子どもの心のケアも必要だ。子どもたちは、家を出ることについて妻と共犯だ。その負い目が子どもたちにはある。また、妻と生活しているため夫(父親)のことを口に出すことも憚られる。父親はいないものとして自分の生活を組み立てなければならない。

 調停のときから、夫は妻に対して、子どもとの面会交流(面接交渉)を求めたが、妻は拒絶した。「子どもたちが夫(父親)に会いたくないと言っている」という。ここで、夫は苦悩を増幅させる。「踏んだり蹴ったり」以上の気持ちであることが手に取るように分かる。

 結果として、
  夫婦は離婚する。
  子どもたちの親権者は母。
  養育費は「算定表」という虎の巻に従って算出された金額。
  財産分与は、可能な限り少額に落ち着いた。
  妻に不貞があったケースでは慰謝料数百万円を夫がもらうことになった。

 夫にとって、金銭的な出費は少なくて済んだ。しかし、断ち切られた子どもとの「絆」を回復することができるのか不安が残る。離婚後、夫が子どもたちと以前のように「わいわいがやがや」できるよう祈るばかりだ。


 
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遺産分割 [弁護士の仕事]

 今まで、弁護士の仕事といっても、普通の弁護士があまり引き受けないような仕事を紹介してきた。ここで、オーソドックスな仕事について書いてみる。

 ある人が亡くなると、遺言が残されていない場合、遺産分割の手続をしなければならない。

 遺産分割の手続としては、段階を追って、①協議、②調停、③審判という順に進んでゆく。①で終われば②③へはいかず、①がダメで②で終われば③にいかず、①でも②でも解決できない場合に③へ進むことになる。

 「棚からぼた餅のぼた餅は、大きければ大きいほどいい」のだろうか。
 身内同士の争いは、激しく根深い。「血で血を洗う戦い」。

 まず、相続財産の範囲を確定する。被相続人(亡くなった人)のプラスの財産(預貯金や不動産など価値のあるもの)と、マイナスの財産(借金や負債など)が、相続財産に含まれる。ここで、プラスの財産よりも、マイナスの財産が多い場合には、相続を放棄することになる。

 次に、相続人間で、だれが何を取得するのか、財産の分け方について議論をする。被相続人が多額の預貯金を保有している場合には、選択肢が多いので比較的容易に分割することができる。他方、自宅の土地建物しかない場合のように財産が少ない場合の方が難しい。

 「うちは財産がないから相続でもめることはない」というのは大間違い。ない方がもめる。

 相続人のうちの誰かが土地建物を相続して他の相続人に対して代償金を支払うか、土地建物を売却してお金に換えてお金を分けることになる。土地建物を売却することには、心情的に抵抗があるようだ。両親と過ごした家を売却するのは忍びないということだろう。

 遺産分割に際して伏線になるのは、子どもたちの経済的基盤と、子どもたちの配偶者の金銭感覚だと思う。経済的基盤がなく金に困っていて、奥さんの金銭欲が強い場合には、激しいバトルになる可能性が高い。理屈では理解できない議論が闘わされる。

 私の事務所には、遺産分割の相談が多い。しかも、複雑で難しい事件が多い。そのような事件を、サクサクと解決するための奥義は、登場人物の性格と経済的基盤を様々な情報から立体化することと、その登場人物の配偶者の情報を多角的に収集することにある。(あっ、企業秘密を漏らっしちゃった…)
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労働審判 [弁護士の仕事]

 労働審判は、2006年(平成18年)4月から導入された制度だ。この制度ができるまでは、労働者が使用者を相手に訴訟を提起し、数年かかって双方疲れ果てた頃にやっと結論がでる、という仕組みしかなかった。現在も、労働審判に不服がある場合には、訴訟に移行させることができる。いわば本丸に入らずに早期解決を目指すアイテムである。

 裁判官である労働審判官と、民間出身の労働審判員2人(労働者側と使用者側)の3人で構成される労働審判委員会が、労働者と使用者との間の紛争について、法的観点から解決案を提示し、あっせんすることによって紛争の解決を図る手続だ(労働審判法1条)。

 申立のあった事案の約80%は、調停(和解)の成立や労働審判の確定により、訴訟に移行せずに決着している。その意味で、一応成功をしていると言える。

 どのような事案が労働審判の対象になるかといえば、解雇された労働者が解雇無効を主張して未払賃金の支払や被用者としての地位の確認を求める事案が多い。その他に、労働者が時間外労働に対する割増賃金の支払を求める事案、などなど労使間の多種多様な問題が対象となる。

 弁護士としては、労働者側・使用者側双方の代理人に選任される可能性がある。

 相対的にみて、労働審判という制度は、労働者に有利に制度設計されていると思う。労働者としては、労働審判で不利な審判がなされると、そのまま訴訟に移行する。その可能性をちらつかせながら有利な和解または審判を獲得するという図式だ。

 先日も、訴訟になれば使用者側が勝てる労働審判で、依頼者(使用者)が高額の和解金を支払うことで決着した。労働審判官(裁判官)は、「そうは言っても、訴訟になれば費用もかかり、時間もかかりますよ。この辺で話しを納めた方が、使用者にとっても良いのではありませんか」と。バックペイを含めて数百万円を労働者に支払うということで決着した。弁護士費用はそんなにかからないのになぁ。時間と手間暇を後ろ向きの議論のために費やすことと、お金とを天秤にかけ、お金で決着というわけだ。

 早期に紛争を解決する手段として労働審判を評価する。しかし、どこがどのようにまずいのかという吟味をしたわけではないが、労働者に極めて有利なこの制度の見直しを、(声高に、いや、少しトーンを落として)提案したい!(ゆるい提案だな…)
 
 
 

 
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ホームロイヤー [弁護士の仕事]

 こう見えても、私には「追っかけ」が複数いる。高齢のご婦人だ。私が講演をすると言えば、必ず真ん中のブロックで私と眼が合う場所をキープする。そして、私の一言一言に反応を示してくれる。心がかようというのは、こういうことを言うのだろうか。このことを妻も知っている。しかし、微笑ましく思っている。ご婦人たちには再臨界の危険性は全くないのだから。

 冗談はさておき、本論に移る。

 ホームロイヤーとは、ホームドクターを模した和製英語だ。企業の顧問弁護士と同じように、私人の顧問弁護士になることとご理解いただければありがたい。

 私は、5人のご婦人、それに1人の男性と、ホームロイヤー契約を締結している。毎月一度、事務所にきていただくか、電話で安否確認をすることが業務の基本だ。そのうえで、本人に代わって処理をすべき事務が発生した場合には、本人の代理人として処理することが契約内容になっている。この5人のご婦人は、みなさん私の「追っかけ」であることは言うまでもない。

 毎月、何の話をするの?と思われるかもしれない。

 ホームロイヤー契約を締結する場合、任意後見と遺言の作成を受任することが基本のパターンだ。自分が呆けた時に備えて任意後見契約を結ぶ。 自分が亡くなった時に備えて遺言を書く。いずれも、自分の意思をそれぞれの段階で実現することが目的である。呆けたら思いどおりにならない、亡くなったら思いどおりにならない。しかし、思いどおりにするためにはどうしたらよいか?任意後見と遺言をしておけば、呆けた後も自分の思いどおりに生きられるし、遺言を書いておけば、亡くなった後も自分の意思通りに資産をバトンタッチすることができる。

 判断能力があり、自分のことを自分で決められる時から、自分の老後や自分の死後に備えて準備をする。その手段として、ホームロイヤーがあるということだ。

 ホームロイヤー契約を締結したのちに、任意後見や遺言を作るための打ち合わせをすることが、1つの目的である。他方、任意後見や遺言の作成が終わった後は、任意後見や遺言では対応できないことについて、議論を深めていく。例えば、お墓の問題。永代供養の問題。

 もっと大事なのは、日常どうしたら良いか分からないことを何でも相談できるというのが、ホームロイヤーの役割かもしれない。気心の知れた弁護士に「よろず相談」を気軽にできる仕組みとして、ホームロイヤーを位置づけることができるかもしれない。

 2011年11月11日、日弁連は横浜で「弁護士業務改革シンポ」を開催する。「ホームロイヤー」もシンポの分科会で議論されることが決まった。どのような議論がなされるか楽しみだ。私もパネラーとして出席する。言いたい放題言うつもりだ。
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未成年後見 [弁護士の仕事]

 私は日本成年後見法学会の理事をしている。だからといって、成年後見の話を、というのは短絡的かもしれない。そこで、一捻りして未成年後見の話をする。

 ある日、家庭裁判所の裁判官から電話が架かってきた。「誰にでも頼める仕事ではない。私を見込んでお願いしたい」と言うのだ。男の子の未成年後見人になってくれと。

 未成年後見は、未成年者に親権者がいない場合に、その子が二十歳になるまでの間、その子の身上監護と財産管理を行う。

 彼が小学校高学年の時に父親は亡くなり、同時期に母親は刑務所に入った。母親の罪名は殺人罪。私は父親の残した数千万円の財産を管理するとともに、身上監護を行うことになった。

 私は彼が入所していた児童養護施設で彼と面会をした。心を開らかせようと、おもしろおかしい話をするのだが、彼は顔を緩ませることはなく、眼をあわせようとしない。自分の殻に閉じこもることが自分を守ることだと考えているのか。数ヶ月に一度彼と面会をしたが、彼は私の顔を見ようとせず、話に乗ってこない。

 暫くして、私は彼に彼の母親の話をした。しかし、下を向いたまま、生返事をするばかりで質問に答えようとしない。その話はしたくないということのようだ。私と彼とは、最後まで心の交流ができなかった。

 彼が18歳の時に、母親が刑務所から出てきた。そして、大学受験。彼はパソコンが好きでコンピュータの勉強をしたかった。そして、見事現役で某大学の工学部に入学した。母親は喜び、合格祝いにバイクを買い与えた。

 大学2年の秋、彼は母親から買ってもらったバイクで事故を起こした。山道を猛スピードで走っていたのだという。集中治療室で2日間、母親と私は彼を激励し続けた。中学時代の友達も駆けつけてきた。しかし、激励の甲斐もなくなく、彼は亡くなった。母親は、号泣しながら「私がこの子を殺してしまった。私が2人を殺したの。ごめんなさい…。罰があたったの…」と言って、跪いた。

 彼の短い人生は何だったのだろうか。母親の姿を見ながら、私は自問していた。

 
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