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未成年後見 [弁護士の仕事]

 私は日本成年後見法学会の理事をしている。だからといって、成年後見の話を、というのは短絡的かもしれない。そこで、一捻りして未成年後見の話をする。

 ある日、家庭裁判所の裁判官から電話が架かってきた。「誰にでも頼める仕事ではない。私を見込んでお願いしたい」と言うのだ。男の子の未成年後見人になってくれと。

 未成年後見は、未成年者に親権者がいない場合に、その子が二十歳になるまでの間、その子の身上監護と財産管理を行う。

 彼が小学校高学年の時に父親は亡くなり、同時期に母親は刑務所に入った。母親の罪名は殺人罪。私は父親の残した数千万円の財産を管理するとともに、身上監護を行うことになった。

 私は彼が入所していた児童養護施設で彼と面会をした。心を開らかせようと、おもしろおかしい話をするのだが、彼は顔を緩ませることはなく、眼をあわせようとしない。自分の殻に閉じこもることが自分を守ることだと考えているのか。数ヶ月に一度彼と面会をしたが、彼は私の顔を見ようとせず、話に乗ってこない。

 暫くして、私は彼に彼の母親の話をした。しかし、下を向いたまま、生返事をするばかりで質問に答えようとしない。その話はしたくないということのようだ。私と彼とは、最後まで心の交流ができなかった。

 彼が18歳の時に、母親が刑務所から出てきた。そして、大学受験。彼はパソコンが好きでコンピュータの勉強をしたかった。そして、見事現役で某大学の工学部に入学した。母親は喜び、合格祝いにバイクを買い与えた。

 大学2年の秋、彼は母親から買ってもらったバイクで事故を起こした。山道を猛スピードで走っていたのだという。集中治療室で2日間、母親と私は彼を激励し続けた。中学時代の友達も駆けつけてきた。しかし、激励の甲斐もなくなく、彼は亡くなった。母親は、号泣しながら「私がこの子を殺してしまった。私が2人を殺したの。ごめんなさい…。罰があたったの…」と言って、跪いた。

 彼の短い人生は何だったのだろうか。母親の姿を見ながら、私は自問していた。

 
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