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危急時遺言 その3 [弁護士の仕事]

  ドラマは、まだ終わっていなかった。

 12月30日夜、主治医から携帯に電話があった。
 依頼者の妹から「兄の病状を教えてくれ」という電話がきているが、どうしたらよいかという問い合わせだった。
 個人情報保護法によれば、依頼者の同意がなければ告知すべきではない。まして、電話の相手が本当の妹かどうかも分からない。依頼者に確認をしてから対応すべきであると答えた。

 12月31日、ケアマネから電話があった。
 長男と妹が依頼者の自宅を訪れ、長男にすべての財産を相続させることになったので、遺言は不要になったという。私は、再度依頼者に意思確認するようケアマネに指示をした。

 依頼者は、モルヒネの影響はあるものの判断能力はある。
 長男にすべての財産を相続させる意思に変わりがないことを確認した。

 危急時遺言の手続(家裁への確認手続)を中止した。

 年が明けて、長男に電話をした。
 弁護士が預かっている権利証や預かり金を返すことを伝えると、
 長男は「医者から、父はここ数日の命だと言われている。自宅で付き添ってあげたい」という。
 そのため、落ち着いてから事務所に取りに来てもらうことにした。

 この事件の全体像が見えてきたように思う。
 他方、父と長男・妹との関係性が見えない。
 両者の間に何があったのか…

 当初、依頼者から長男や妹との間に何があったのか、敢えて聴取しなかった。
 それを聴くことによって、依頼者の心の安定を乱すのではないかと考えた。
 それで良かったのだと思う。

 彼にとって、命が燃え尽きるときに、寄り添うひとが誰もいなかった。
 短い時間ではあったが、私が彼に寄り添えたことで良しとしよう。

 (おわり…たぶん)

 
 
 

 
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