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少年事件Ⅰ その1 [弁護士の仕事]

 かなり前のはなし。
 高校2年生の少年が逮捕された。罪名は殺人。被害者は父親。

 警察署長が記者会見を開き、事件の概要を説明した。自宅で父親から朝寝坊をとがめられ、逆上して父親を殺したと、センセーショナルな発表だった。このような会見が開かれると、多分そのとおりなのだろうと一般人は考える。少年の社会復帰にとって、このようなレッテル貼りが最も障害になる。

 警察で少年に接見をすると、ぼうっとしているが素直な男の子だった。
 当日の朝の状況を事細かに聞いていくと、彼には殺意はなく、事故ではないかという心証を抱いた。

 しかし、警察は彼には殺意があり、彼の行為は殺人の実行行為であるという絵を描いている。ここで、その趣旨にそった自白調書をとられると、その自白を覆すことは難しく、少年審判で殺人が認定される可能性が高くなる。そこで、自分が見聞きし、自分が本当に行ったこと以外は、刑事に話すなと釘をさした。

 毎日彼に接見をし、当日刑事から聴取された内容とその真偽を文書に書き留めた。そして、その文書に公証人の確定日付をとることにした。それによって、当日彼に対してどのような取調があり、彼がどのように答えたか、その答えが真実か否かについて証明力を高めることができる。

 毎日接見することは、ひとりの弁護士では限界がある。そこで、3人の弁護士で弁護団を組むことにした。その3人が、必ず毎日彼に接見をして、励ましながら、刑事からの聴取内容をメモにとり、その日のうちに公証人の確定日付をとっていくことにした。

 現場の実況見分もした。母親に当時の状況を再現してもらい、少年と父親の立ち位置や動きを確認した。その状況から、弁護団は、少年に殺人の実行行為はなかった、殺意もなかったことを、共通認識としてもつに至った。それを前提に弁護方針を立てることにした。

 (あしたに、つづく)
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