SSブログ

老人福祉施設の被害は、本当に不可抗力? [被災者支援]

 あの日あの時刻に、大船渡にある特別養護老人ホームには、入所者とデイサービス利用者合わせて91人のお年寄りがいた。そのうち55人の方が津波に襲われて死亡または行方不明になった。海岸から約1キロ離れた坂の途中にあるこの特養では、デイサービスの大きな部屋でお年寄りたちが輪投げゲームをしている最中に、激しい揺れがきた。「怖いなぁ。津波がこねえばいいなぁ」と誰かが言った。その直後に、津波は容赦なくこの特養に襲いかかった【読売新聞2011.4.22 「3.11の記録ー大地が海が」】。

 ここで問題になるのは、この特養があった場所である。大船渡は、過去に何度も津波被害に遭っている。しかも、10メートル以上の高さに及ぶ大きな津波だ。そのため、街角には「ここから先は、津波被害に遭う可能性がある」「ここまでは、津波被害に遭う可能性がある」というプレートが各所に設置されていた。この特養は、まさに「ここから先は津波被害に遭う可能性がある」場所のど真ん中に位置していた。

 老人福祉法は、社会福祉法人が特養を設置しようとする場合、都道府県知事(政令指定市の場合は市長)の認可を受ける必要があると規定する。知事は、厚生労働大臣の定める設置基準(省令)を充たしていることを確認して、設置について認可をする。

 この設置基準には、特養の基本方針や設備、運営に関して、細かな点についてまで規定がなされている。確かに、設置基準に「安全な場所に設置しなければならない」という規定はない。しかし、安全な場所に建物が建っていることは認可をする当然の前提であり、危険な場所に特養を建てようとする場合、役所は認可をしない。

 本件のように、津波が押し寄せることが想定されている場所に特養を設置する場合、役所は津波被害の可能性を全く無視をしてよいものだろうか。このような危険な場所に特養を建てることを認めた県に全く責任がないと言えるのであろうか?

 確かに、今回の津波は未だかつてない大きなものであった。ここまで大きな津波が押し寄せ、ここまで大きな被害が出るとは予測できなかった、不可抗力であった、と県は抗弁するのであろう。しかし、本当に不可抗力であったのかどうか?過失を認定する際の判断基準である、「予見可能性」がなかったと言えるのか?

 被災者の家族の立場からすると、「そんなところに特養を作らせなければ、うちの親は死ななかった」と言うのであろう。これに対して、「いや、そうではなくて…」と言うことに、弁護士として躊躇を覚える。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:blog

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

被災者への法的支援労働審判 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。